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岡山地方裁判所 昭和63年(ワ)682号 判決 1989年9月19日

原告

有限会社丸海運輸

被告

平田哲男

主文

一  被告は原告に対し、金六四万二四一一円及び内金五八万二四一一円に対する昭和六三年六月一五日から、内金六万円に対する昭和六三年一〇月六日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その二を被告のその余を原告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金一六〇万八二五〇円及び内金一四五万八二五〇円に対する昭和六三年六月一五日から、内金一五万円に対する昭和六三年一〇月六日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、昭和六三年六月一五日午前五時二五分ころ、岡山市豊浜町一〇―五二先県道上において、普通乗用自動車を運転して進行中、時速約八〇kmの速度で他の車両を追い越そうとして、ハンドル操作を誤り、中央分離帯を乗り越えて反対車線に進入し、反対方向から進行してきた原告の従業員である訴外村上基運転の原告所有の普通貨物自動車(以下、「原告者」という。)に正面衝突した(以下「本件事故」という。)。

2  本件事故により、原告車は大破し、積載していた砕氷は四散し、運転していた訴外村上基は前頭部切挫傷及び前腕挫傷の傷害を受け、これらにより原告は次のとおり損害を蒙つた。

(一) 原告車の損害 金一〇二万七三〇〇円

原告車は五九年式三菱キヤンター、一・五トン積、超低床式、標準ボデイー、七九馬力であつたが、これに相当する中古車の価格が金七〇万円であり、それを原告車と同程度の装備に工事する費用が金三二万七三〇〇円必要となる。

(二) 砕氷代 金二万円

一袋四〇〇円の砕氷五〇袋が四散して使用できなくなつた。

(三) 営業損害 金四一万〇九五〇円

訴外村上基は、魚市場において原告のために氷の販売にも従事していたが、本件事故により受けた傷害のため、事故後半月ほど氷の販売をすることができず、他の者が代わりに販売したが、かなり熟練を要する仕事のため、昭和六三年六月の売上は昭和六二年の売上に比べて、金四一万九五〇円の減少となつた。

3  本件事故は、被告の一方的過失によるものであり、被告は前項記載の原告の損害を賠償すべき責任があるのにこれに応じないため、弁護士費用として金一五万円の支払いを余儀なくされた。

よつて、原告は被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求として、金一六〇万八二五〇円及び内金一四五万八二五〇円に対する不法行為の日である昭和六三年六月一五日から、内金一五万円に対する訴状送達の日の翌日である同年一〇月六日から、各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実のうち、本件事故発生を認め、その余は否認する。

2  同2の事実のうち、原告に相当程度の損害が生じたこと及び訴外村上基が負傷したことは認め、(一)ないし(三)の損害は否認する。

原告車の残存市場価格は金三〇万円である。

3  同3の事実のうち、被告の責任は認め、その余は否認する。

三  被告の主張

被告は代車料として金三五万円の出損を余儀なくされているところ、いわゆる代車料相当期間は一か月もあれば可能であり、したがつて代車料は、前記金員の三分の一位が相当であつて、右限度を超える部分は損害が填補されているというべきである。

四  被告の主張に対する認否

被告主張事実は知らない。

第三証拠

本件記録中の証拠目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1の事実について

本件事故の発生については当事者間に争いがない。

その余の事実については、成立に争いのない甲第一号証、第七号証の一ないし三、同号証の六、同七及び証人村上基の証言によりこれを認める。

二  請求原因2の事実について

1  本件事故により原告に相当の損害を生じたこと、訴外村上が負傷したことは当事者間に争いがない。

2  原告車の損害について。

交通事故により車両が損害を受けた場合、通常はその修理費用が損害となるところ、修理費用が当該車両の事故後の時価と事故前の時価との差額を上回る場合には原則として、右時価の差額を限度として損害額を算定するのが相当である。そこで、原告車の事故前の時価について判断するに、原本の存在及び成立に争いのない甲第三号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第三号証および証人森松秀人の証言によれば、原告車は昭和五九年二月に初度登録された五九年型三菱キヤンターであり、一・五トン積、超低床式、標準ボデイー、七九馬力で、床水切仕様、屋上デツキ等の特別装備がなされていたことが認められる。また、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第六号証(いわゆるイエローブツク)によれば、特別装備のなされていない原告車と同年代、同種の車両の中古車小売価格は四九万五〇〇〇円であることが認められる。これに対し原告は本件事故により破損した原告車と同程度の中古車(特別装備のないもの)の価格が金七〇万円である旨主張しこれに副う証拠として甲第二号証を提出し、前記証人森松秀人もこれに副う供述をしているが、右甲号証における車両は年式が昭和六〇年のトヨタ車であるから、これをもつて同種、同年代の中古車の価格として認めることはできない。なお、前記乙第三号証には原告車の事故前の時価が三一万円である旨の記載がなされているが、右乙号証の原告車の時価の算出根拠は原告車の新車価格一二六万七〇〇〇円、定率原価償却換算率(〇・一)、中古車市場における右車両の価格六二万円ないし六三万円、その他車両程度、車検残、市場性等を考慮するとしているところ、車両の程度、市場性等が必ずしも客観的事実に裏付けられていないこと、さらに、原告車には前記のとおり特別装備がなされているのにこれを考慮していないことから直ちに右乙号証をもつて原告車の事故前の時価の証拠として採用することはできない。

そうすると、前記乙第六号証における中古車小売価格四九万五〇〇〇円からスクラツプ代金一万円(前記乙第三号証)を控除した四八万五〇〇〇円をもつて特別装備のなされていない原告車の事故前の時価と推定するのが相当である。そして、前記証人森松秀人及び証人村上基の証言並びに前記甲第三号証によれば、原告車にはボデイ等に特別の装備をしているため原告車と同程度の装備をする工事費用として二三万円、登録諸経費として六万四五〇〇円を要すること(甲第三号証中のその諸経費のうち重量税、自動車税は損害に含まないと解するのが相当である。)がそれぞれ認められるから、これらの諸事情を彼比総合すれば、本件事故当時における原告車の時価は七七万九五〇〇円程度であつたと推定するのが相当である。また、原告車の修理費用については、前記証人森松秀人によれば一〇〇万円以上であると見積もられたことが認められるから、原告車の事故前の時価より修理費用のほうが上回るので、原告車を破損させたことによる原告の損害は七七万九五〇〇円であると認めるのが相当である。

3  砕氷代について

証人村上基、同森松秀人の証言及び弁論の全趣旨によれば、本件事故により原告車に積載してあつた砕氷が四散し、その使用ができなくなつたこと、その価格は合計二万円であつたことが認められる。

4  営業損害について

原告は原告車を運転していたその従業員の村上基が本件事故により傷害を受けたため、代替者が右村上の業務に従事した結果売上が減つて営業上の損害を蒙つた旨主張するところ、事業の経営者は、通常業務に従事する者が不慮の災害を受けても営業に支障の生じないよう種々の対応策を講じておくべきであり、とりわけその従業員が代替性の困難な業務に従事している者であればあるほどその者の事故による事業の停滞等の危険は増すが、その危険の除去は経営者の責任に基づくものというべきであるから、経営者がその危険に対する対応策を講ずることを怠り、従業員が交通事故で業務に従事できなくなり事業上の損害を生じたとしても、そのような損害は交通事故の加害者において一般に通常予見可能であつたということのできる損害とは認め難い。したがつて、原告が主張する営業上の損害は、一般の社会通念からみれば、他に特段の事情が認められないかぎり、従業員の村上基の受傷から通常生ずべき損害とは認められない。そして、右特段の事情を認めるに足りる証拠もない。

よつて、原告の営業損害の主張は理由がない。

5  原告の以上の損害の合計は七九万九五〇〇円となる。

6  被告は原告に対して代車料として三五万円を出損したところ、代車の使用相当期間は一か月が相当であるからその期間を超える部分は損害が填補されている旨主張するので以下判断する。

前記森松秀人の証言、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第四号証、第七号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は本件事故発生の日である昭和六三年六月一五日から同年九月一日までの七九日間被告側の用意したレンタカーを使用し、その代金三五万円を被告側の保険会社が出損していることが認められる。そうすると、交通事故により車両が全損し代替車を購入するまでの期間は経験則上一か月(三〇日)であると認めるのが相当であるから、原告の本件事故によつて生じた代車料の額は一三万二九一一円(35万円÷79×30=13万2911円)であると認められ、これを超える二一万七〇八九円は前記5の損害に填補されたものというべきである。

7  弁護士費用について

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、原告が被告に対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は六万円とするのが相当であると認める。

三  結論

以上の次第であるから、原告の本訴請求は被告に対し前記二5の損害額七九万九五〇〇円から同6の填補額二一万七〇八九円を控除し、これに同7の弁護士費用六万円を加算した六四万二四一一円及び弁護士費用を控除した五八万二四一一円に対する不法行為の日である昭和六三年六月一五日から、弁護士費用六万円に対する訴状送達の日の翌日である同年一〇月六日からそれぞれ支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 玉越義雄)

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